福岡地方裁判所田川支部 昭和57年(ワ)129号 判決 1983年5月26日
原告
大島俊文
被告
後藤邦昭
主文
1 被告は、原告に対し、金二八二万九八六六円、及びこれに対する昭和五五年一〇月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は1項につき仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一〇九七万九三二六円、及び、これに対する昭和五五年一〇月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(事故の発生)
原告は、昭和五五年一〇月二四日午前八時二五分頃、田川市白鳥町一三番二八号の信号機により交通整理の行われている交差点を信号機に従い自動二輪車を運転進行中、右信号機による交通整理に拘束されないが原告が進行する道路の方が優先する道路より右交差点に進入して来た被告運転の普通貨物車に衝突した。
2(被告の責任)
被告は、原告運転の自動二輪車が進行する道路が優先する道路であるから交差点に進入する場合優先道路を進行する車両の動向に充分注意し進入する注意義務があるにもかかわらず、これを怠つた過失があるので民法第七〇九条により、もしくは、自動車損害賠償保障法三条による運行供用者として責任を負う。
3(損害)
(一) 原告は本件事故により、腰部胸部打撲・第三腰椎粉砕骨折・顔面打撲挫傷の傷害を受け、昭和五五年一〇月二四日から昭和五六年二月七日まで村上外科病院で入院治療を受け同月八日から同月二七日まで通院治療(実治療日数八日間)を受け、同月一二日から昭和五七年五月二七日まで総合せき損センターにて通院治療(実治療日数二一日間)を受けた。また第三腰椎の骨折による腰痛症のため昭和五六年二月一〇日から昭和五七年五月一九日まで大津施術所にて四〇回の鍼灸治療を受けた。
(1) 治療費
村上外科病院 金五八万一九〇〇円
総合せき損センター 金八万〇七一八円
大津施術所 金一〇万一〇〇〇円
(2) 付添費
原告は右傷害のため、昭和五五年一〇月二四日から同年一二月三一日まで付添が必要であつたので付添費として金四七万六六七六円の支出をした。
(3) 入院中諸雑費 金一〇万七〇〇〇円
(4) 休業損害 金一五八万一六七六円
原告は本件事故により、勤務先のたがわ生活協同組合を昭和五五年一〇月二四日から昭和五六年七月六日まで休まざる得なかつた。
なお、当時の原告の年収は金二二五万五一二四円である。
225万5,124円×256/365=158万1,676円
(5) 傷害に対する慰藉料
原告は、本件事故によつて腰椎を骨折するという重症を負い長期の療養生活と日々の腰痛に苦しんだので、その慰藉料としては金一六〇万円を下ることはない。
(二) 原告は、本件事故により腰椎を骨折したため、腰椎に奇型を残し運動を大きく制限されている。その後遺症は自賠法施行令第二条の後遺障害別等級表の第一一級七号に該当する。
(1) 後遺症に対する慰藉料
原告は、右後遺症によつて今後一生苦しまなければならず、その慰藉料は金二四〇万円を下ることはない。
(2) 逸失利益 金八八一万九三三八円
原告は昭和二四年三月三一日生の男子であるが事故当時の年収金二二五万五一二四円に休業後から六七歳まで三四年間就労可能として、それを新ホフマン方式により中間利息を控除し労働能力喪失率を二〇パーセントとして損害を算出すると次のとおりとなる。
225万5,124円×19,554×20/100=881万9,338円
(三) 損害の填補
原告の損害に対し、被告より金二万円、自賠責保険より金四一九万円、労災保険より金一五五万八九八二円合計金五七六万八九八二円支払われた。
(四) 弁護士費用 金一〇〇万円
被告は、原告の請求に対し任意に支払わないので、原告はやむなく代理人に委任し本件訴訟を提起するに至つたが、その弁護士費用は請求金額の約一割相当である金一〇〇万円を請求する。
4 よつて、原告は被告に対し、前記第三項の(一)+(二)-(三)+(四)の金一〇九七万九三二六円およびこれに対する不法行為の翌日である昭和五五年一〇月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否ならびに主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2につき被告の責任は認めるが、本件事故の発生につき原告にも過失があつたものである。
3 同3のうち(一)、(二)、(四)は不知、(三)は認める。
4 同4は争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因1の事実及び同2の事実のうち被告の責任については当事者間に争いがない。
二 本件事故の態様について
成立に争いのない甲第一号証、同第一〇号証ないし第一三号証、原、被告各本人尋問の結果を総合すると次の各事実を認めることができ他にこれを左右するに足りる証拠はない。
(1) 本件事故現場の交差点は、原告車通行道路(以下本件道路という。)が優先するが、設置された信号機は本件道路を横断する歩行者用に設けられたもので、被告車進行道路との間には信号機は設置されておらず、原告車進入側の交差点手前から被告車進行道路との間は約三〇メートル位あり、極めて変則的なものであること、また、右の間の相互の見通しはあまりよくないこと。
(2) 事故当時、原告は自動二輪車を運転していたものであるが、雨が降つていたため原告としては前方が見にくい状態にあつたこと。
(3) 被告は、交差点手前で一旦停止して他の車両の通過を待つてから時速約一〇キロメートル位の速度で交差点内に進入したが、その際他に通過車両はないものと軽信し、充分な左右の確認を怠つたため、中央線付近にきてはじめて右方約一三・八メートル先の原告車に気づいたこと。
(4) 被告が原告車を発見した時、原告車は中央線を越えて進行してきていたこと(原告は、本人尋問において、被告車を発見して急ブレーキをかけると同時に中央線を越えた旨述べているが、前記甲第一〇号証、第一一号証、被告本人尋問の結果に照らし措信できない。)、その後、被告車は中央線を越えた付近に停止したが、原告車は急ブレーキをかけたため、この右手前約八メートルで横倒しに転倒したまま滑走して被告車右側面に衝突したこと。
以上の事実によつて判断するに、本件事故は、被告が優先道路を進行してきた原告車に気づくのが遅れたことが主要因というべきで被告の過失は否定できない。しかしながら、原告は、本件交差点内において中央線を越えて進行していたものである。中央線を越えた事情は明確ではないが、雨天のため二輪車の運転者として前方が見にくい状態にあつたことから、原告としても前方の注視が充分なされていなかつたことは容易に窺えるし、原告が急ブレーキをかけた位置からも被告車に気づくことが遅れたことは明白である。また、原告は被告車の前方を通過しようとしたものと思われるが、すでに被告車はほとんど中央線を越えた位置にあつたのであるから、この前方を通過するのは適切ではないし、むしろ、後方を通過する方が事故回避に適切である。そして遡つて原告が道路左端部分を進行していれば、例え被告車の発見が遅れても容易に被告車の後方を通過しえたはずである。さらに、原告は急ブレーキをかけたため転倒、滑走して衝突したものであるが、二輪車の運転者としてブレーキ操作に適切さを欠いたこともいなめず、雨天の場合の道路事情を考慮すればなおさらである。
以上の諸点を考慮すると、本件事故発生につき原告にも相当な過失があつたものというべきで、被告の本件事故における過失の割合は六割と考えるのが相当である。
三 損害について
成立に争いのない甲第二号証ないし第四号証、同第五号証の一ないし一〇、同第六号証、同第七号証の一、二、同第九号証、前記原告本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第八号証を総合すると次の各事実を認めることができる。
1 治療費等について
原告は、本件事故により腰部胸部打撲、第三腰椎粉砕骨折、顔面打撲挫傷の傷害を受け次のとおり各病院で入・通院治療を受け、各費用を要したこと。
(一) 治療費合計金六六万二六一八円
村上外科病院 金五八万一九〇〇円
昭五五・一〇・二四~五六・二・七入院
五六・二・八~五六・二・二七通院(実日数八日)
総合せき損センター 金八万〇七一八円
昭五六・二・一二~五七・五・二七通院(実日数二一日)
(二) 付添費 金四七万六六七六円
(三) 入院中諸雑費 金一〇万七〇〇〇円
なお、原告は、鍼灸治療を四〇回受けた旨主張し、その事実は認められるが、右治療はせき損センターにおける治療と重複するし、その費用は相当因果関係あるものとは認められない。
2 傷害による慰藉料 金一五〇万円
前記傷害の程度及び入通院(但し、通院については長期にすぎるので実日数を勘案のうえ)の実情によると金一五〇万円が相当である。
3 休業損害 金一五八万一六七六円
原告は昭和五五年一〇月二四日から同五六年七月六日まで休業をやむなくされたこと、及び原告の当時の年収は金二二五万五一二四円であることから次のとおり金一五八万一六七六円となる。
2255.124×256/365=1581.676
4 後遺症に対する慰藉料 金二二〇万円
原告は本件負傷により第三腰椎が変形するという後遺症を残しており、これは自賠法施行令第二条の後遺障害別等級表一一級七号に該当するものと認められ、これに対する慰藉料としては金二二〇万円が相当である。
5 後遺症逸失利益 金七三〇万三四四四円
原告は昭和二四年三月三一日生れ(事故当時三一歳)の男子であるが、本件後遺症が腰椎の変形によるものであるので、前記休業後から三四年就労可能として、労働能力喪失率を二〇パーセントとしたうえ、前記年収額に対してライプニツツ方式により算定すると次のとおり金七三〇万三四四四円となる。
2255.124×16.193×20/100=7303.444
6 以上を総合すると本件事故により原告の蒙つた損害額の合計は金一三八三万一四一四円となるところ、前記双方の過失割合により相殺すると、金八二九万八八四八円となる。
四 原告において合計金五七六万八九八二円を受領していることは当事者間に争いがないので、これを控除すると残額は金二五二万九八六六円となる。そして、弁護士費用としては金三〇万円が相当であるから、これを加えると金二八二万九八六六円となる。
五 以上により、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 郷俊介)